HCD(人間中心設計)とは?一言で言うと|非デザイナーにも伝わる説明法

みなさん、人間中心設計専門家ってご存知でしょうか?
僕は、2017年に HCD-Net から人間中心設計専門家として認定を受けました。この記事を書いているのが2025年なので、今年で人間中心設計専門家生活 8年目 に突入です。
僕はフリーランスで、しかも屋号を設定していないため、名刺の表面は「HCD-Net認定 人間中心設計専門家」という文字の下に自分の名前が記載してあるだけのシンプルなものです。なので、初めてお会いする方の3人に2人くらいの割合で「人間中心設計専門家というのは、なんですか?」と聞かれます。
デザイナー、またはWeb業界の方には「プロのUXデザイナーです」と伝えるとすぐにわかってもらえるのですが、そうでない人には「体験をデザインする仕事です」という一文から始めて簡単な例を挙げます。ですが、多くの場合「は〜、そうですか〜」と微妙な反応をされます。そこから突っ込んだ会話にもなりません。
2020年以降に、LEGO® SERIOUS PLAY® 認定ファシリテーター という肩書きを追加したので、最近では人間中心設計専門家に触れる前に「LEGOで作品を作られる方ですか?」と言われることの方が多いです。と言っても、LEGOで作品を作る資格ではないので、これはこれで説明が必要ですが…。
とまぁLEGOの話は置いといて、人間中心設計専門家について説明した後の 微妙な反応 は、僕の説明が悪い可能性も否定できないなと思っておりました。
この資格の認定機構である 特定非営利活動法人 人間中心設計推進機構(HCD-Net) では、認定者にHCDの普及・推進が期待されています。私自身もその役割を自覚して活動しています。なので、人間中心設計専門家である僕自身が資格を説明できていないとなると、かなり問題です…。
本日は、この体験から感じた課題をクリアにするべく、「人間中心設計とは何か」を簡単にわかりやすく伝えるトークスクリプトを考えてみたいと思います。
人間中心設計とは
人が実際に使う状況・目的・制約を出発点に、わかりやすく使いやすい体験 を反復的に作る設計アプローチです。国際規格 ISO 9241-210(Human-centred design for interactive systems) にプロセスが整理されています。
代表的な流れは、①ユーザーと利用文脈の理解 → ②要求の明確化 → ③解決案の創出 → ④プロトタイプ化 → ⑤評価 → ⑥改善の反復。
(文字だとわかりづらいので、コチラのサイトにある画像を見てもらうとわかりやすいです)
目的は「作ってから直す」のではなく、作る前に学び、作りながら確かめる ことで、手戻りと“使われない機能”を減らし、品質と納期の両立を図ることです。
サービス・プロダクトの企画フェーズから、ターゲットとなる利用者(ユーザー)の要求を理解・把握し、ソリューションを検討・実現し、それらがユーザーの要求にマッチしているかの仮説検証を繰り返すことで、事業者と利用者のニーズを満たします。
また、人間中心設計の英語表記は Human-centred design、略して HCD と呼ばれ、人間を中心としたデザイン設計として 人間工学(ヒューマンファクター) の系譜に位置づけられて発展してきました。(歴史的な背景に興味がある方は こちら のサイトを参考ください)
僕は、もともとSI屋のプログラマーとして働いていたことがありますが、業界的に事業会社や製品側の都合を優先することが当たり前で、ユーザビリティ は、よほど声が大きくないと考慮されないことがありました。
そのため、納品後の運用フェーズにて利用者の改善要望を 一つずつ 対応していくような流れが一般的でした。
(BtoBサービスの場合は、社長や部長クラスの意思決定者が「ここ、使いづらいね」などと言われると、優先度が跳ね上がります。BtoCの場合は、SNSで騒がれると割とすぐに改善されます。んー、日本って感じですね(笑))
最近では、特にWeb業界では UX(User Experience) というキーワードとともに顧客志向の考え方が浸透してきましたので、ペルソナ設計 で利用者のイメージを具体化したり、プロトタイプ を作成して公開まで検証するプロセスが取り入れられています。
どんなメリットがあるのか
上記の通り、利用者(ユーザー)の要求を満たすサービス・プロダクトが生み出されるため、利用者の満足度向上 に寄与します。
一言で満足度と言いましたが、業務システム を例に挙げると、
-
わかりやすいことによる 教育コストの削減
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使いやすいことによる 作業効率の向上(結果として人件費削減)
という効果があり、BtoC向けのECサービス であれば、
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操作しやすいことによる 利用率の向上(比較検討がしやすい)
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画面がわかりやすいことによる 購買プロセスの円滑化
などがあります。
他にも、共通して言えることとして、
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利用者の望むものを作り上げるので、そもそも 「使われない」リスクを早期検証で大幅に下げられる。
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利用者の望むものを作り上げるので、結果として コストを抑えられる。利用者の声を無視して作り上げたものが利便性などを欠いていれば不満の声が出てきます。改修コストを考えると、初期構築時にある程度まとめて対応できたほうが、結果として安上がりとなる。
といったメリットもあります。
上記は一般論ですが、僕の視点での効果もお伝えします。
僕は、Web制作会社で受託ビジネスをしていたこともあり、付加価値として適正な対価を得やすい/受注単価を上げやすい という効果を実感しています。
受託会社は、発注元(事業会社)から要求されたものを単純に作るだけでも仕事として成立します。ところが、その要求された内容を「HCDのプロセスを導入したサービス・プロダクトを作ります」という形で請け負うことで、HCDプロセスにかかるコストも請求できます。つまり、適切な初期投資をHCDプロセスに配分することで、手戻り減少と品質向上を両立しやすくなる ということですね。
言ってしまえば、要求事項に コンサル的な要素 を付加価値として提供するイメージです。もちろん、求められていなかったり予算が決まっている場合などには、このような提案はしませんが…。
人間中心設計を他人に伝える時は?
お待たせしました。このブログで僕が一番書きたかったことですね。
結論、「体験をデザインする仕事である」という始めの文章に加えて、上記のメリット部分を具体例を交えて話してあげると伝わりそうです。
最近はこのブログを書くために(!?)、参加者の多そうなイベントで名刺交換をしてきました(笑)UX的な効果を伝える例として、以下の文章に落ち着きました。
具体例として自動販売機の利用体験を挙げると、自動販売機で商品を買うと、商品が取り出し口から出てきます。この取り出し口が下にあると、商品を取り出すときにかがまないといけない。ところが取り出し口を自分のお腹のあたりにすると、かがまなくても済むので、そのためにはどうしたらいいかを考え、実現に向けて頑張る、という仕事です。
これは“取り出し時の姿勢負荷”というユーザーの文脈・制約を観察し、設置高さという解決策に落とすHCDの典型例 ですが、みなさん、実体験を想像できるので理解しやすいのかなと思っています。
トークスクリプトを磨き上げるという目的でイベントに参加したのは初めてですが、とても有意義な時間となりました(笑)
最後に
人間中心設計専門家・スペシャリストの認定制度を定めている団体HCD-netについて紹介します。
サイトにちょうどいい紹介文がありましたので引用しますと、
HCD-Netは、HCDに関する学際的な知識を集め、産学を超えた人間尊重の英知を束ね、HCD導入に関する様々な知識や方法を適切に提供することで、多くの人々が便利に快適に暮らせる社会作りに貢献します。あわせて経済の発展への寄与と、豊かでストレスのない実りある社会の実現をめざします。
引用元:https://www.hcdnet.org/organization/
ということでした。
えらく固い言い方ですが、先に説明した
『人間中心設計』を普及して社会貢献をします
と言うことですね。
普及の手段としては、セミナーやサロン、研究発表、また各種フォーラム、シンポジウム、カンファレンスなどイベントを開催(または他イベントへの参加・登壇)しています。
人間中心設計専門家というだけあって、割とアカデミックなものが多かったですが、最近は入門編など初心者をターゲットにしたものもありますので、興味がある方は是非参加いただければと思います。
実施予定のイベントは以下より確認できます。
https://www.hcdnet.org/hcd/event/
HCD(人間中心設計)を学びたいという方は、以下の本がおすすめです。
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