レンタルビデオ店はなぜ潰れないのか? 〜動画配信のほうが便利じゃない?〜
最近、TSUTAYAプレミアムというサービスのTVCMを見ました。
CMでは、池田エライザがTSUTAYA店内をミュージカルチックに徘徊しており、テロップにはお店のDVD借り放題で返却期限なし、延滞金なしの文字が出てきます。
返却期限なしっていったら、返さなくて良いということになります。
返却期限がないので、延滞金は当然かかりません。
んでもって、DVD借り放題・・・
んなアホな、と思ったのは僕だけではないと思います。
ちょっと調べればわかりますが、持ち枚数上限が定められており、一度にレンタルできるのは5枚まで。それ以上借りたい場合は、持っている5枚を返却しなければなりません。
また、サブスクリプションサービスなので、何もレンタルしていなくても月額1,000円が発生します。
ちゃんとTSUTAYAが儲かるように考えられているわけですが、このCMを見た時に
そもそもレンタルビデオってまだ需要あるのか?
と感じました。
僕自身、appleTVを購入してからは、見たい映画はiTune Connectで買ってしまいます。なので、レンタルビデオ店に行くことはありません。
この時期、TSUTAYAプレミアムのおかげで、レンタルビデオ業界の記事がネット上で公開されることが多かったので、僕と同じような疑問を抱いている人の記事を読むと、
- 有料動画配信(VOD)の市場拡大
- 2010年にアメリカ最大のレンタルビデオチェーン店、ブロックバスターが倒産
あたりがフォーカスされてました。
この流れからもわかるとおり、普通に考えたら「この市場からは撤退する」という判断になりそうですが、それでも日本はまだレンタルビデオショップが存在しており、TSUTAYAはおそらく打開策としてTSUTAYAプレミアムを開始したのだろうと、容易に想像できます。
TSUTAYAくらいの会社になれば、十分なマーケティングを行っていると思いますので、勝機があると判断してのサービスインだと思います。
となると、もしかして日本のレンタルビデオ市場には僕らが知らないだけで、需要あるのかもしれません。
というわけで、本日は日本でレンタルビデオショップが残っている(なくならない)理由について、考察してみました。
日本のレンタルビデオの市場
みなさんは、映画を見るとしたらTSUTAYAやGEOといったレンタルビデオ屋さんに行くでしょうか?
それとも、Netflix (ネットフリックス) ・Hulu・Amazonプライムビデオといった動画配信サービスを利用しますでしょうか?
僕はIT業界にいるせいか、周りの友人はほとんど動画配信を利用しています。
一方で専業主婦の嫁さんの友達は、レンタルビデオを利用する人がほとんどだそうです。
以下の表を見るとわかりますが、レンタル市場は右肩下がりで、2013年から有料動画配信の市場がグンと伸びています。
引用元:http://www.jva-net.or.jp/report/annual_2017_4-11.pdf
市場的には業界自体の規模が小さくなっており、レンタルビデオと動画配信の割合は半々ですね。
この結果は予想はできていたので、特に驚くことはないかと思います。
では、レンタルビデオが衰退した原因について言及していきます。
レンタルビデオが衰退した理由
市場動向から明らかな点もありますが、改めて考察していきたいと思います。
動画配信サービスの普及
利用している方も多いと思いますが、VOD(ビデオ オン デマンド)と呼ばれる動画配信サービスのことでインターネットを利用して映画などの動画を閲覧できます。
普及した理由は以下の通り、圧倒的な利便性です。
- VODはオンライン上で映画をストリーミングやダウンロードして見れるので、レンタルビデオ屋さんにいく必要ない。
- 物理的にDVDを借りるわけではないので、返却はありませんし、返却期限までに返さないと発生する延滞金もない。
- 「借りようとしていた映画作品がレンタル中で借りられない」などということもない。
なお、動画配信には大きく4種類あり、それぞれ特徴があるのでついでに紹介しておきます。
SVOD(定額動画配信)
月額料金を払い続けることで、映画が見放題なので、映画を見る頻度が多い人には最適なサービスです。
NetflixやHulu、dTV、amazon プライム・ビデオなどに代表されるものです。
月額料金は各社1,000円くらいですがdTVのみ月額500円と低価格を実現しています。
なお、SVODサービスは各社しのぎを削っており、各社で特定のジャンルの動画を豊富に取り扱うことで、ユーザをターゲティングしています。
また、最近ではSPAと呼ばれる独自コンテンツを展開することで差別化を図っています。
これは僕の勝手な予想ですが、この流れが続けば、将来的に各社がAbemaTVやFOD(フジオンデマンド)にように放送局になるような世界になるのかもしれません。
TVOD(レンタル型動画配信)
TVODは48時間といった視聴期限が決められている動画配信サービスです。
金額的には400円程度かかるので、レンタルビデオよりちょっと高いです。
実は、TVODは新作が多く「SVODではまだ取り扱いがないもの」が多いです。
レンタル開始から1年ほどすればSVODで見れるようになりますが、そこまで待てない人は、TVODでレンタルするという事になります。
EST(買い切り型動画配信)
ESTは、映画データを購入することを意味します。購入した映画データをダウンロードし、PCやSPで再生して楽しみます。
購入なので、2,500円程度の金額がかかりますが、DVDを買うよりは安いです、
もちろん視聴期限などの縛りはなく、ダウンロードしてしまえば、オフラインで映画の再生が可能です。
AVOD(広告型動画配信)
こちらはみなさんも利用したことがあると思います。
代表的なものとしてはYoutubeです。
テレビもそうですが、映画を無料で放送してスポンサーから広告宣伝費を得ることでビジネスとして成立しています。
同業者間の競争によるレンタル価格の下落
レンタルビデオ業界では、みなさん御存知の通りTSUTAYAとGEOの二大巨頭が存在します。
もともとキャンペーンとしてTSUTAYAが旧作100円を始め、競うようにGEOが旧作80円を打ち出しました。
さらに、GEOはキャンペーンとして旧作50円の施策を展開するにまで至りました!
この頃GEOは、中古販売に業態をシフトさせていたので、この旧作50円は中古販売を促進させるための赤字覚悟の施策でした。
価格競争になったら、市場のシェアが多い企業が有利なので、業界の上位の会社だけが生き残れる状態となります。つまり体力のない個人経営のレンタルビデオショップは立ち行かなくなります。
また、一度下げた価格を戻しても利用率は戻りません。(過去マクドナルドがハンバーガーを60円で販売し、その後、価格を戻した途端に売れなくなった事象は有名です)そのためTSUTAYA・GEOは低価格での販売を余儀なくされたと考えられます。
レンタルビデオの市場におけるシェアを誇るTSUTAYAとGEOがマーケットリーダーでありことは周知のとおりで、お互いがコストリーダーシップを握るべく争った結果ですね。
加熱した価格競争の結果、市場そのものが無くなる可能性をはらむわけですが、残念ながら動画配信にシェアを持っていかれる未来となりそうです。
HDDレコーダーの普及
HDDレコーダーの普及によってVHSのビデオデッキを使った録画予約よりも、簡単に録画・録りためできるようになりました。
また、全番組を録画する「全録レコーダー」なるものまで登場しました。
実は、地上波で映画が放映されるとその翌日以降、同タイトルの作品のレンタル率がアップします。
この理由は、地上波で映画を見た人が当該映画の感想をSNS投稿をすることで、ずっと見たいと思っていた人が映画作品を「思い出す」からだそうです。
そこで、機能的価値が充実したレコーダーが普及されたことにより録画漏れ(※)が防げるため、ビデオをレンタルしなくなる要因となります。
※遠隔で録画予約がで可能なものもあります。
日本でレンタルビデオがなくならない理由
先に触れたとおりアメリカでは、最大手のレンタルビデオチェーン店は倒産するなどしているため、レンタルビデオの市場は10%ほどだそうです。
さらに、前述した衰退の理由から「ユーザがレンタルビデオショップに足を運ぶ理由などあるのか?」と思ってしまいます。
ですが、TSUTAYAは日本に1,000店舗以上存在し、利用者はまだまだ健在です。
時代の流れは動画配信なのになぜ?
ここから本日の主題である、動画配信サービスの方が便利なのにそれでもレンタルビデオを利用する理由について言及して行きます。
映画は大きなテレビで見たい
みなさん、レンタルしたDVDはどこで観ますか?
「動画配信(VOD)市場調査レポート2017」を参照すると、動画配信を利用する場所の1位は自宅のリビングで、2位が自分の部屋でした。
3位以降は圧倒的に少ないので、自宅のリビングか自分の部屋以外のところで利用しているケースは、映画を観る目的の他に「空き時間を有効に使いたい」などといった別の動機があると考えられます。
実際、海外ドラマなどであればスマホで見るのでもアリかと思いますが、気になっていた映画であれば「家のリビングにある大画面のTVでゆっくりと観たい」という人が多いことが読み取れます。
見たい作品が配信されていない
動画配信で映画を取り扱う場合、権利の問題でレンタルビデオよりも多額の金額がかかります。
そのため「見たいと思う人が多い映画」つまりは人気の映画を選りすぐる必要があります。
さらに、それでも潤沢な作品数を取り扱うのは難しいため、競合他社とかぶらないように、特定ジャンルの動画配信作品を多く取り扱うことで、差別化を図っています。
また資金の問題の他に、そもそもメーカーから動画配信の許諾がおりない作品もあります。
例えば、スタジオジブリ系作品やジャニーズ系のライブDVDなどが該当します。
こういった事情から「動画配信では取り扱ってないけど、レンタルDVDはある」という状態になり、レンタルビデオ店に足を運ぶ必要が出てきます。
実際に各社の動画配信サービスの在庫を観るとわかりますが、一般的なレンタルビデオ店よりも少ないことがわかるかと思います。
最近Amazonプライムビデオの作品数はスゴイですね。やっぱり資金力があるところが違いますね。近い将来、動画配信の方が作品数を上回る可能性は十分あります。
よって「買うほどではないが安く映画を観たい」という作品がマイナーだった場合は、店舗で映画をレンタルするというということになります。
余談ですが、昔TSUTAYAはスパイダーマンなどを独占レンタル契約を結び、訴訟問題となりました。資本主義社会である以上、当然の対応かもしれませんが、右肩下がりの市場のマーケットリーダーが取るべき施策だったかどうかは疑問が残ります。
動画配信は値段が高い
レンタルビデオは、旧作であれば1週間でTSUTAYAは100円、GEOなら80円で借りることができます。
これもひとえにTSUTAYAとGEOの激しい価格競争の結果でありますが、動画配信だと48時間で400円となります。
動画配信は見たいときにレンタルすればいいので時間は48時間もあれば十分ですが、金額は店舗の4倍です。
学生は、人生で一番映画を見る時間がありますが、お金はありません。。。
(金あるやつは映画館に行くだろうしね、、、)
逆に言うと、値段の安いレンタルビデオショップに行く時間が取れるので、あえて動画配信を選択しないのです。
日本人は忙しい!
「映画を見たいけど、時間が取れない!」
社会人の方はそんな経験ありませんでしょうか。
そして、通勤の時間や、会社の昼休みを利用して映画を楽しんでいる人を見かけたことはないでしょうか。
一昔前は光回線などのように、物理的なケーブルでつながれていないと高速通信はできませんでしたが、通信技術の発達により、LTEや5G回線が誕生し、無線の高速通信が可能になりました。
これにより、場所と時間を選ばず映画を楽しくことが可能になりました。
以下のデメリットはありますが、代案がありますし、何より「時間が無いけど映画が見たい」という人にとってはトレードオフが成立しているのだと思います。
- スマホやタブレットといった画面の小さいデバイスである
- 解決案:我慢する
- 通信料がかかる
- 解決案:定額プランに加入
- 電池の消費が激しい
- 解決案:モバイルバッテリーを持ち歩く
また、学生が電車通学中に映画を楽しんでいる姿を目にしたことがありますが、デジタルネィティブであれば「時間が無い」ではなく「スマホで楽しむのが当たり前」なんて理由もあるかもしれません。
最後に
TSUTAYAと言えば、レンタルビデオ屋さんのイメージが強いですが、実は代官山T-SITEなど、スターバックスや図書館との協業している蔦屋書店として、大きな商業施設に店舗の展開をしています。
言わゆるレンタルビデオ屋さんとしてのTSUTAYAは、時代の流れ的にマッチしないのではないかと思います
ちなみにTSUTAYAやGEOもレンタルビデオだけではなく「TSUTAYA TV」「ゲオTV」という動画配信サービスを展開しています。レンタルビデオのみでは、顧客価値が満たされないということだと思います。
時代は、モノからコトへの消費が重要視されていると言われています(まともな統計がないので、メディアが言ってるだけかもしれませんが、、、)
TSUTAYAが取り扱う商材はレンタルビデオがメインかもしれませんが、僕が子供の頃、家族でTSUTAYAに行くとなったら「ビデオ!ビデオ!」と弟と一緒に大興奮したことを覚えています。
そのくらいワクワクしたものですし、大学生くらいまでは足繁く通ったので、レンタルした映画を観て非日常空間を体感したり、違う価値観に触れることで心に刺激を与えたり、など今の自分のライフスタイルの形成に大きな影響を与えてくれました。
そんな僕も2児の父になり、子供とTSUTAYAにいくこともあります。
女の子なので店に入った瞬間に、プリキュアコーナーに飛んでいきますが30年前の自分も同じ動きをしていたのだと思うと、なんだか感慨深いものがあります。
また、以下のTwitterにあるマンガを読んだときには「わかる!」という思いとともに、少々寂しく思うところもありました。
地元のTSUTAYAが閉店してしまった事を漫画にしました。 pic.twitter.com/FzZ6GsHTwr
— 近藤笑真 (@sotincat) 2017年12月17日
とはいえ、そこはビジネスなので過去の栄光にすがりつくのではなく、例えば、先日紹介したコチラの記事のとおり、レンタルビデオ屋さんから体験を重視した業態に変遷するなど、今の市場にマッチした顧客価値を提供できるようTSUTAYAには期待したいと思います。
2018.1.25追記
TSUTAYAではありませんが、個人経営のレンタルビデオショップが閉店する記事も見つけました。
読んでみるとやはり感慨深いものがあります。
https://withnews.jp/article/f0180104003qq000000000000000W00o10101qq000016548A
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